錦帯橋に挑んだ男たちの涙

藤井 淳史(岩国市 66歳)

この日、錦帯橋のまわりはトンデモナイ異世界になっていた。

河原に巨木がゴロンゴロンと何本も連なって大蛇のごとくうねり、丸ごと埋まって停止したバスはまるで王蟲(オウム)。水辺では怪魚ならぬコンクリート製巨大たい焼きがチェーンで支柱に釣りあげられるところだった。♪ガガガガ……、頭の中でロックのビートが響き始めた。

城山と城下町に囲まれ、静かなたたずまいをみせる錦帯橋に挑みかかるように始まった市民参加型の大型野外美術展「‘88環境アートプロジェクト 岩国・錦川・錦帯橋」は一大衝撃を与えた。36年前のできごとである。
世の中の当たり前をブッ壊すプロジェクトを実行したのは「水西ロンド」という集団。芸術とはまったく縁のないボクだったが、誘われるまま、熱気の渦にまきこまれてしまった。
〝首謀者〟は襖田誠一郎という建設会社経営のおっさん。殿敷侃(とのしき・ただし)という芸術家をプロデューサーとして呼び込み、名のある作家7人が集まった。
団塊世代である襖田さんは社会に広がる同級生の力を借り、リミッターを振り切るように作家たちの挑戦を支えたが、彼らの発想は予想をはるかに超えてブッ飛んでいた。
一人は河原に巨大シートを広げ、大地をのたうち回りながら腕に抱えた高圧ホースの筒先から水を縦横無尽に撒き散らしてシートを裂き、一人はほぼ全裸になり、川なかに建てた掘っ立てキューブのロープにぶら下がって揺れた。